ターゲットがなびいてきたと感じると、詐欺師は「キメ」にかかります。
詐欺師にしてみれば、ここまで苦労して組み立ててきた話が実るか、無になるかという瞬間なのです。優秀な詐欺師であればあるほど、キメの際に力を発揮します。

威圧的に迫る。泣き落とす。断れない状況にする。なだめる。など、その方法は様々です。
ここではリフォーム詐欺を例に「キメ」について紹介します。

リフォーム詐欺の仕組み

「仏の顔も三度」とは本来「仏のような慈悲深い人でも、何度もひどい目に遭えば怒り出す」という意味です。
しかし、詐欺師は、相手を騙すために「仏の顔で三度」ささやくのです。

リフォーム詐欺の手口

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ちまたで悪徳業者によるリフォーム詐欺が騒がれ始めたのは、2005年5月に発覚した埼玉県富士見市在住の70代姉妹が遭ったリフォーム詐欺の被害からです。

認知症だった姉妹は悪徳業者により、必要のないリフォームを繰り返しさせられ、被害総額は約5,000万円にもおよびました。
しかも悪徳業者は1社だけでなく、この家のリフォームに群がった悪徳業者の数は何と16社以上と言われています。

当時、私はこのリフォーム被害の実態を調べるため、富士見市に問い合わせました。しかし電話に出た職員からは「マスコミからの電話が殺到していて、個別での取材には応じられない」と言われ、担当者に取り次いでもらえない状況でした。
その後の報道合戦により、近頃になってようやく高齢者を食い物にするリフォーム詐欺の被害実態が暴かれ出したのです。

私も詐欺という観点から独自にリフォーム詐欺の被害を調査し、悪徳業者たちが「仏の顔をしたささやき」を使って、老人たちを騙していることを突き止めました。悪徳業者は次のような手口でリフォーム詐欺をするのです。

悪徳業者はささやきながら取り入る

リフォーム詐欺の手口

悪徳業者は建築年数の経った老人宅を事前に調べておき、訪問します。
そしてターゲットを絞り、狙い撃ちするのは詐欺師の常套手段です。ある悪徳業者は「市場調査部隊」まで作り、事前に老人宅を調べていたというから、その用意周到さには驚きです。

作業服姿の男が1人暮らしの老人宅を訪ねます。そこは見るからに老朽化していそうな家です。
まず男は相手が断りづらい内容で話しかけます。

「すみません。近くで工事をしているものですが、ご挨拶で回らせてもらっています」

わざわざ挨拶に来た人を、むげに断るわけにもいかない。老人はそんな思いで玄関先に出てきます。出てきた老人に男は深々と頭を下げる。

「これから騒音などでご迷惑をおかけするかと思いますので、ご挨拶代わりに排水管の清掃をさせてもらっています」

ここは「させてもらえませんか?」という疑問形ではなく、「させてもらっています」なのです。

いわゆる善意の押し売りをするのです。これが一度目のささやき。

排水管は老人にはとても掃除できない部分です。「床下を点検する」と言って近づく業者もそうですが、詐欺師は相手の手が届かない部分をついてくるものなのです。

男は敷地内に入り、排水管の蓋を開け掃除をする。ひと通り終わると、仕事をしたことをアピールするためにドロドロになった手を見せながら話します。

「排水管がひどい状態でしたので、きれいにしておきました。それに台所の下で水漏れを起こしていたので、とりあえず処置をしておきました」
「ですが…」

と言って男は話を続けます。

「もしかすると他の床下の部分でも水が漏れているかもしれませんね。水漏れは1箇所だけでなく、複数から漏れている場合が多いのです。念のため、調べておいた方がいいですよ」

男は親切心を装いながら、住宅に欠陥がある可能性を示唆します。そもそも水漏れがあったかどうかも疑わしいのです。男の狙いは「床下点検」の2次調査につなげることなのですが、悪徳業者の真意など老人に見抜くことはできません。
優良な業者ならここで「どうしますか?」と尋ね、本人の意志を確認するものです。しかし、悪徳業者は本人の同意抜きで話を進めるのです。

「近くに専門の業者がいるので、詳しく見てもらった方がいいですよ。今、電話しておきますね」

そう畳み掛けるのです。しかも、検査料金も3,000円くらいの手頃な金額を呈示します。これは自分たちが優良企業であることを演出するためです。老人は親切心からだと思っているので、軽い気持ちで検査の依頼をしてしまいます。

しかし悪徳業者は2次調査の約束を取りつけても、すぐには帰りません。これから高額のリフォーム契約をさせようと思っているので、より深い信頼関係を築く必要があるからです。そのため、家の掃除、庭の草むしり、肩を揉んであげるなど、孫のような顔をしながら奉仕活動をするのです。これが二度目のささやきです。



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詐欺師は悪役を引き連れている

翌日、男は床下を専門に見る業者を連れて現れる。2次調査は間を空けずに行うのが基本なのです。
専門業者は床下に入り、老人に聞こえる声で叫ぶ。

「これはひどい状態だ!」

業者の狙いは家の悪い状態を老人に訴えかけるところにあります。

「床下に水が溜まりカビがひどい。その影響で柱も腐りかけている。土台がもろくなっているので、このままでは家が傾いてしまうかもしれない」

その他にも「梁が歪んでいて、地震がきたら家が壊れる」「床下が腐り落ちて、怪我をしてしまう」など、老人が不安になるような言葉を浴びせ掛けます。急に降って湧いた話に老人はパニックを起こします。

そこで立ち会っていた男が老人に優しい声で言う。

これがキメ手となる、三度目のささやきです。

「僕が手配してあげようか?おばあちゃんのために、通常の値段より安く工事ができるように働きかけてあげるから」

詐欺師の手口の一つに「衣食住」に対しての恐怖を煽り、脅すというものがあります。ライフラインがなくなることを人はなによりも恐れるからだです。リフォーム詐欺の場合は「住」を人質に取り、脅かすのです。

そこに男が救いの言葉をかける。まさに老人は地獄で仏を見る思いがするのです。

「だったら、相談に乗ってもらえるかい?」

そして言われるがままに床下換気扇の取り付けや、湿気を取るための乾燥剤をまくなど、数百万円に及ぶ工事の契約をしてしまうのです。

老人は悪徳業者に騙されて契約してしまう

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悪徳業者たちの手に名簿が出回れば一巻の終わり

ここで注目すべきことは、騙す際の役割をはっきりさせているところです。最初に訪問した男は善人役で、専門業者は悪役なのです。

悪役は話を続ける。それを聞いているうちに老人は「この人、怖い」と思うようになります。そこで仏役が「僕がいるから安心して」とささやくのです。この鬼と仏のコラボレーションによって、リフォームの必要性が演出されていくのです。

同じ穴のムジナであるにもかかわらず、2つの面を使い分けることによって、ターゲットの心を開かせるのです。

一度、この手で契約をさせられるとリフォーム工事名簿が出回り、仏役と鬼役の業者のセットが次々と押し寄せるようになってしまいます。

家の耐震診断をした後、「梁が腐りかけている」と言い、不必要な補強材の工事をしり、「それでもまだ安心してはいけない」と点検するために屋根に上がり、わざと瓦を壊して、それを修理するなど、取れるだけ取ろうとしてくるのです。

詐欺師は悪魔役を引き連れながら「仏の顔で三度ささやく」のです。


探禎社 多希