詐欺師は話のテンポを変え主導権を握り思考を誘導する
先ずは早口で語り、あいづちを打たせない!

詐欺師から電話がかかってくる

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7月末の蒸し暑い夜、部屋の電話が鳴りました。

「はい、もしもし」
「市川さんのおたくでしようか?」
「はい」
「夜分遅くに申し訳ありません。私はY社の山本と申します。弊社は在宅ワークを斡旋しているのですが、市川さんにご紹介したいお話があってお電話させていただきました。少しだけ、お時間をいただけないでしようか?」

わざわざ「仕事の紹介がある」といって電話をかけてくること自体怪しいのですが、一応聞いてみることにしました。

「はい。少しでしたら、大丈夫ですよ」
「ありがとうございます。今回、市川さんにご紹介したいのは、弊社の画期的な在宅ワークのシステムです。簡単に説明しますと、こちらからアンケートを市川さんに送りますので、ご自宅のパソコンかスマホでそのアンケートにお答えいただくと報酬を受け取っていただけるというようになっております」

今までも何度かこんな感じの勧誘の電話はありましたが、アンケート方式の在宅ワークは初めてでした。

山本は甲高い声で一気に語り出しました。

「例えば、コンビニでよく買う飲物は何ですか?いくらくらいのものを中心に購入しますか?など簡単な質問ですと、1回100円になります。1回1,000円の内容のアンケートもあります」

山本は流れるようなスピードで話します。
「うん」や「はい」などの相槌を打たせる間を与えません。

「その他に文字打ちの仕事もあります。これはA4版サイズで1枚700円くらいです。その他、フリーライターのお仕事や、地図入力もあります」

「フリーライター」という言葉を聞いて「どんな仕事かな?」と気になって質問したい衝動にかられましたが、山本の話に間がないので聞けません。

「簡単な仕事なんで経験のない方でも大丈夫なんです。文字打ちの仕事は20分でだいたいA4版1枚が完成しますから、1時間あれば、3枚できます。1枚700円の報酬として、3枚でいくらになるか分かりますか?」

いきなり計算の質問をしてきました。何かを探っているのか?それは分かりませんが、私は即答えました。

「2,100円です」
「はい、そうです。1日1時間ぐらいなら市川さんは、在宅ワークの時間を収れますよね」
「ええ、まあ1時間くらいなら…」
「では次に、1日1時間、2,000円を稼げると考えてみましょう。1ヶ月でいくらになるでしょうか?」

またしても計算です。

「30日で6万円ですね」
「はい、その通りです。月に6万円もらえたらいいですよね。年計算で70万以上の収入になるんですよ!」

山本は自分の言いたいことだけを話します。
これは詐欺師がよく使う手なのですが、スピード感のある口調で話の切れ目をなくし、相手の疑問や質問を消し去り、自分が伝えたい情報だけをインプットさせるのです。

実際、私が話の途中で聞こうと思った「フリーライターの具体的な仕事内容」についての質問は、山本の話を聞いているうちに忘れかけていました。



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詐欺師は巧みに話のスピードを変えながら、相手を誘導します

詐欺師は巧みに話のスピードを変える

ところが、15分を過ぎた頃から、話すペースがゆっくりになりました。
何故なら、一通り在宅ワークのメリットを語り終え、話が次の段階に移るからです。

「現在、私たちはバーチャルシティを作っており、私どもの会員になると多くの情報が得られますよ。月会費は1,500円です。安いですよね? そこからさまざまな仕事がくるようになっています」
「どんな仕事があるのですか?」

私は聞きました。

「これまでの面白い仕事では、犬の散歩とかがありますね。他にはプログラマーの仕事とか、いろいろです」
「へえ、犬の散歩とは、在宅ワークの域を越えてますね」
「まあ、そうですね」

これ以上、この話題に触れられたくないみたいで、山本はガラリと話を変えました。

「ところで、私どもにはホームページ作成の仕事もあるんですが、市川さんはできますか?」
「いいえ、残念ながら、パソコンはメールとインターネットくらいしかできません」
「そうですか」

山本の声はますます甲高くなりました。

「私たちのところでは、ホームページ作成の方法を覚えることもできるんですよ! 覚えてしまえば実に簡単なことです。それに当社独自のシステムとして電話でサポートしながら仕事ができるようになっています。ぜひとも、ご利用ください!」

なぜ、山本は話のペースを落とし、私に質問をする機会を与えたのでしょうか?

ここには大きな理由があるのです。

今回の電話の目的は、在宅ワークをエサにして、ホームページ作成のCD教材を売りつけるところにあるのでした。

ここから先は具体的な契約や会員登録の話が主になるため、これまでにした話を私かどのように考えているか、反応を探っておく必要があるのです。そこで、私が何かしらの発言ができるように、話のペースを落としたのです。

そして山本は言いました。

「まず会員登録なさってはいかがですか? 月に1,500円の会費で、今からでもすぐに仕事ができますから。ただし、ここで注意していただきたいことが1つあります、仕事を始めた場合、通信費などの諸経費として毎月1万3,000円を収人から差し引かせていただきますので、ご了承ください」

この会員登録がミソ!
話に同意すると、会員登録の申込書だけでなく、月に1万3,000円の支払い(諸経費代)が明記された4年ローンのCD購入契約書が送られてくるのです。
私はこれまでの収材活動の中から、この仕組みを知っていたので即座に断りました。



今回のように、まず一方的に話をして、伝えたい情報を相手にインプットさせ、次に急に話のペースを落として、相手の頭にさまざまな疑問、質問を生じさせる。

そしてわざと間を作り、それを口にさせる。
すべては相手に疑問、質問を吐き出させ、それを徹底的につぶして、契約に同意させるためなのです。

その他にも詐欺師は、急に話を中断し質問するという手も使います。
話の急ブレーキをかけられた状態では、受け手の頭は一瞬、空白になります。
そこで詐欺師は尋ねるのです。

「ここまでで何か質問はありますか?」

そう聞かれても、思考停止状態になっているため、質問など出てくるはずありません。すると詐欺師はこう畳み掛けてきます。

「質問がないのでしたら、了解していただけたと判断して、次の話をいたします」

そして騙すためのセカンドステップに移っていきます。もし相手が話のギアチェンジをしたら、要注意なのです。

詐欺師の手口はリアルとフェイクを混ぜ合わせる

詐欺師はリアル(真実)とフェイク(嘘)を混ぜ合わせ、何が真実かを分からなくする!
ごちゃまぜにした中から真実だけを拾い上げ、正しさを証明する。そうすると聞いている方は相手の話がすべて真実に見えてくるのです。
これが嘘を真実に変えるカラクリです。

在宅ワーク詐欺「煙に巻く技」

詐欺師から電話がかかってきた
11月の寒い夜、テーブルに置いてあった携帯電話が鳴りました。市外局番は「022」で、私の実家の市外局番と同じでした。親戚か地元の友人からの電話だろうかと思い、電話を取りました。

「こんばんは、佐藤さんですよね」

聞いたことのない男性の声でした。

「先口資料を送らせていただいたF社と申します。届いていますか?」

F社…?。確か、在宅ワークを斡旋する会社ではなかったかな?

「ちょっと待ってもらえますか」

私はその会社から送られてきた資料を山になった郵便物の中から引っ張り出しました。
資料の入った封筒を見て、私は不思議に思いました。封筒に記された会社の住所は東京であるにもかかわらず、なぜか消印が仙台になっているのです。今の電話も「022」で始まっているし。何か裏がありそうな会社だと直感しました。

「今回、お願いしたい仕事は、空いた時間を有効に利用してのホームページ作成です」
「はい」
「私どもでは入会金や保証金、講習会の料金など一切かかりません」

私はこの言葉を聞き、おやっ? と思いました。
まったくお金のかからない在宅の仕事なんてあるのかな。普通、在宅ワークを始めるためには初期費用がかかるはず。それがこの商法のキモでもなのに。それがかからないということは新しいビジネスモデルを提案しているか、高額商品を買わせるためのまき餌にしているか、どちらかでしょう。私はこの話に興味を持ちました。

なるほど、と頷いてから、説明をうながした。すると男は快活な声で話し始めました。

「それでは私たちの在宅ワークの手順をご説明致します。まず、あなたのところにeメールで原稿の下書きを送ります。それを元にホームページを作成していただきます。最低でも1ヶ月9ページは必ず仕事を出します」
「ふ~ん」

私の声色が浮つくと、彼は取りつくろうように言いました。

「それにしても最近、在宅ワークの紹介で怪しいところが多いですよね」

彼はいきなりそう言って、「正しい在宅ワークを選ぶ基準」「怪しい会社の見分け方」などを語り出しました。これも詐欺師のテクニックの1つなのです。自分たちが疑われる前に業界そのものの怪しさを前面に出し、それを説明する。丁寧な説明をすることで「自分たちは怪しい会社じゃないんですよ」ということを言いたいらしいが、脈絡もないのにそんな話をすること自体、後ろめたさがある証拠です。

「まず、怪しいのは、とにかくパソコンを買えと言ってくる業者ですね。それに電話を非通知でかけてくるところ。送られてきたダイレクトメールに電話番号や住所が記載されていないところ。それに口約束で確認を取って、契約を迫るなど、そういった会社は危険です」

一通り説明してから彼は言いました。

「当社はこのどれにもあてはまっていませんので、ご安心ください!」

思わず頷く人もいるかもしれませんが、ここは一歩立ち止まることも必要なのです。なぜなら彼の発言の中には嘘と真実が混ざっているからです。
彼が言うように、悪質な在宅ワーク斡旋業者の中には、非通知で電話をかけ身元をはっきりさせなかったり、在宅ワークを始める前に「初開投資としてパソコンが必要です」などと言い、欲しくもないパソコンを買わせる業者もあります。

しかし、彼の話の中で気になる点があります。
怪しい会社の例の中に「送られてきたダイレクトメールに電話番号や住所が記載されていない」と言っていましたが、それはいかがなものかと思うのです。

そもそも客に電話をかけさせるためのダイレクトメールなのに会社の電話番号や住所を載せないなどということがあるでしょうか。それではまったく意味のないダイレクトメールになってしまいます。

おそらく彼は今、口がうまく回っているのだろう。
そのため「電話を非通知でかけてくるところ」という条件を言ったあと、つい気持ちよくなって、マニュアルにはない彼なりのアドリブを付け加えたのではないでしょうか。

しかし、それを聞いて私は口が滑ったなと思いました。そしてそんな嘘を挿入してくる以上、このF社こそが怪しい会社の代表であることも見抜いたのでした。

彼はそんなことも知らずに話を続けます。
そのうちに具体的な金銭面の話になってきました。

「私どもの仕事をするにあたっては、ソフトウェアが必要です。そのソフトで勉強しながら、仕事を受けていただくことになります。そこでCDロム6枚分の諸経費として、1ヶ月に1万7,000円が、毎月仕事をした分から差し引かれます。3年経てば、一切お金がかがらずにお仕事ができるようになっています」

早口なので注意して聞いていなければ置いていかれてしまう危険性がありますが、私はこの商法の仕掛けをつかみました。彼の言う「毎月差し引かれる諸経費」とはローンの支払いを意味しているのです。もし私がこの件に関して「分かりました」と言えば、CDロム6枚の購入代金として、1万7,000円×3年払いのローン契約書が送られてくるようになっているのでしょう。

最初の話ではお金が一切かからないと言っていましたが、それはまったくの嘘だったのです。しかし、それを伝えても彼は「いいえ、初期投資はかかりません。こちらから出した仕事の報酬の中から差し引かせていただきますので、お客様の持ち出しにはなりません」などと言うのでしょう。

結果、どうなるか。明白です。
F社から仕事の発注などはなく、ただCDロムの代金を支払わされることになるのです。

私は「在宅の仕事は結構ですから」と言い、購入を断りました。



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詐欺師のアジトは実体不明

詐欺師のアジトは実体不明
後日、私は封筒に書かれていたこの会社の住所を訪ねてみました。
最初はただのダミー会社かと思っていましたが、この会社は存在したのです。郵便受けに社名がタイピ
ングされた自い紙が貼ってあるだけでしたが、住所はあくまでリアルです。しかし、どうもうさ
ん臭いイメージを受けました。詐欺師の行動の裏にはいつもフェイクが隠されているもです。

そこでビルのオーナーにこの会社のことを聞いてみました。

「この会社は昔からあるんですか?」
「いいや、去年の春から夏にかけて入ったよ」

まだ1年も経っていないようなのです。しかも、人の出人りもなく、オーナーも何をしている会社なのかは分からないそうです。

1ヶ月後、再びF社の営業マンから電話がかかってきました。

「どうですか?お気持ちは以前と変わりませんか?」

私は彼に聞いてみました。

「ところで、おたくは設立してどれぐらいなの?」
「10年以上の会社ですので、安心して下さい」
「会社のビルはS区K町にあるようだけど、その場所にはどのくらいいるの?」
「同じく10年以上です」

私は現地調査をしているので、この話が嘘だとわかりましたが、電話を受けただけの人間には見抜けないはずです。

リアルとフェイクを織り交ぜるのがうまい詐欺師と話をしていると、いつの間にかフェイクの部分も真実に見えてくるのです。すべてが「正しいことを言っている」ように聞こえ始めたら、勧誘されている側は黄色信号なのです。

探禎社 多希